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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

まだダメだ!

2018.10.1 Mon

ジョークで「夫の書斎にないものはない。しかしないものが一つだけある。それは足の踏み場」と、いつも笑いをとっていた。
冗談ではなく、書斎を覗いた人は「プッ!」と笑うほど凄いことになっているが、それは仕方ない。
脱稿して片付ける間もなく次の作品に取りかかっていたし、以前は連載を複数抱えていたので、その参考文献など片付ける間もない。それでひどいことになっていたが、私たち二人は、もともと『人間はゴミで死ぬことはない』派だから、多少のゴミ屋敷でも平気だった。「死ぬとしたら、崩れ落ちた書籍などの下敷きになって窒息死かな?」なんて。
そしてあの日、突然の病魔に上京して、書斎は時間が止まったままになっていた。
でもそろそろ片付けなくてはと、昨日、書斎のドアを開けて、「ウッ!」と息がつまり、涙がじわり……。
自宅が職場だったから、ほとんど毎日、食事は三食とも家で食べる。そして夫はどちらかと言うと食いしん坊だったから、だいたい食事の時間には書斎から出てくる。時々筆が乗って集中しているときは、その時間を忘れていることがあった。
待ち時間が長い時、しびれを切らした私は書斎のドアを少しだけ開けて、中の様子を覗う。夫は真剣な顔をして考えてはキーを叩き、キーを叩いては真剣な顔をしている。そして私が覗いているのに気がつくと顔を上げて、「あれッ? もうそんな時間?」とふっと時計を見る。
昨日、ドアを細めに開けたとき、夫がそこにいた。そして「あれッ? もうそんな時間?」って。
……私、まだダメ。まだ当分ブログでグチグチと夫のことばかり書くかも。そろそろやめようと思ってはいるのだけど、長いこと二人暮らしが続いていたから……。
そのうち楽しいことを書くから、もう少し待って下さい。

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