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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

エッセイスト

2019.4.20 Sat

かまくら春秋社という会社からエッセイの依頼が来た。
鎌倉の湘南一帯を紹介するタウン誌で、ふと軽井沢のセンセと光彦さんの会話を思い出してフフフ……だった。
光彦さんが湘南あたりのことを話題にしたとき、センセの「ショウなんですよ」と言うくだらなすぎるダジャレに、光彦さんが冷笑したシーンだ。何の作品だっけ?
ま! いいや。送られてきた見本本を見てびっくり。さすが鎌倉だ。過去の執筆者の名前がすごい。
やなせたかし、石原慎太郎、松谷みよ子、三浦哲朗、下重暁子、浅井慎平、新藤兼人、山田太一、太田治子(敬称略)etc.
聞くところによると『かまくら春秋』は、小林秀雄、里見弴、堀口大学etc.、鎌倉在住の文豪文士や学者たちが寄稿していた老舗冊子だとか。そんなところから何で私に? と、『文藝春秋』からエッセイの依頼が来たときと同じくらいびっくり! 何かの間違いじゃないの? と。
書店などで作家の名前をチェックすると、私の名前は林真理子さんの前にある。作家なんていわれるほど私は立派じゃないけど、50音順だからそうなるのだけど面映ゆい。
でもその時は唯一、林真理子さんに勝ったぞ状態だ(そう思うこと、恥ずかしいことだけど)。
それでかまくら春秋社の方は、間違って林真理子の一つ前の私に依頼してしまったのではないかと勘ぐってしまった。
でも勿論お受けした。だって鎌倉は軽井沢に移る前の私の憧れ№1だったし、「江ノ電」での移動にうっとりだったから。江ノ電が海岸べりを、民家の軒下を、紫陽花の側をゴトゴト走るなんて、なんて素敵なんだ……と。
40年ほどむかし、私たち夫婦は鎌倉に住みたいと思っていた。それでドライブがてら下調べに鎌倉に出かけた。古都・鎌倉はシーズンオフで、静かな佇まいだった。素敵だった。
二階堂だの雪の下、それに極楽寺あたりが夢だった。不動産屋に立ち寄ると、その当時の我が家の収入では、借金をしてもささやかな土地しか買えないと知って諦めた。
その後、戸隠への取材の帰りに立ち寄った軽井沢に恋をしたのだけど、鎌倉ではささやかな土地しか買えない金額で、軽井沢では1000㎡になったのだった。
その鎌倉から依頼が……。
実は去年の10月の終わり、長谷の大仏に会いたくて鎌倉に行って来た。与謝野晶子が褒めたとおり、大仏は相変わらず端正なお顔をして座っていらした。外国人の観光客が大勢大仏を取り巻いていた。
その時、今度はたぶん観光客がいないであろう静かなときに、極楽寺あたりを歩こうかなと思っていた。
懐古趣味かもしれないけれど、いまの軽井沢と同じに、鎌倉も本来の姿は消えつつあるのだなと、ちょっと寂しかった。
『文藝春秋』に続いて……、私、もしかしたらエッセイストかも……と、ニンマリ!
間違い指名でも何でもいい。チャンスだ! 頑張るぞ。


事務局・注)掲載は「かまくら春秋」5月号(4月末日発行)の予定です。
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