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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

ぎんなん

2017.11.18 Sat

東京の木々も、すっかり色づいてきた。あらッ!? と気がついたら色づいていたという感じだ。
そして日に日に色づいていて、「きれい!」と思う気持ちと軽井沢に帰りたいという気持ちで、胸が痛くなる。
最近の夫は私に気を遣っているのかどうか「早く軽井沢に帰ろう」と言わなくなった。それはそれで私は辛いのだけど。
タクシーで絵画館前のイチョウ並木を通りかかると、イチョウ並木も色づきはじめていた。絵画館に向かって右側よりも、左側のイチョウの黄葉の具合が早い。それも木によって色づきにばらつきがあり、これは日当たり具合なのだろうか。一本の木なのに「まだ黄色くならないぞ」と抵抗している枝もある。自然は面白い。
ぎんなんが落ちていた。
「勿体ないですね。私、子どものころ田舎に住んでいて、ぎんなんを拾って食べましたよ」
と、タクシーの運転手さんとのおしゃべりが始まった。早朝にぎんなん拾いをしている人もいるようだ。お料理やさんかな?
「美味しいんですよね。茶碗蒸しを食べるとき、真っ先にぎんなんを探してました」って懐かしそうだ。
国会議事堂あたりにもぎんなんは落ちているそうだ。「だったら皇居前の広場でブルーシートに寝泊まりしている人が拾って、料理屋さんに買って貰えばいい収入になるのに……。でもぎんなんを剥くときのあの臭い! ぎんなんの皮や実を田舎だと埋めたりして処理すればいいのだけど、都会だとあれはどう処理すればいいのかしら」と言うと、運転手さんが突然「あッ! 分かった!」って。
日比谷公園の公衆トイレに、以前は『ここで洗濯はしないで下さい』という貼り紙が、最近は『ここでぎんなんを洗わないで下さい』になっているんですよ。そうかア、そういうことかア!」
もう二人して大笑い。
タクシーの料金はいつもと変わらなかったけど、時間は短く感じた。

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