内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
ゾンビ
2018.2.22 Thu
所用で外出し、何度か電車を乗り換えた。
エスカレーターを下りてホームに出ると、あまり広くないホームの黄色い線の内側はかなりの混み具合だ。
寒いし、大抵のひとは黒い防寒コートを着ている。そしてギョッ!として、一瞬立ちすくんだ。
感じでは6割? いや7割? の人が同じようににうつむいている。そして一様に親指を動かして、かまぼこ板くらいの大きさの世界に見入っている。
その様子はまるでゾンビだった。
電車が入って来て黒のダウンコートの私は、ゾンビの団体に溶け込んだ。
ホームにいた人が乗り込んだのだから、車内はそうとうの混み具合だ。それでも不自由な姿勢でゾンビは復活していた。
乗り換えの駅では「歩きスマートフォンのご使用は他人の迷惑になるし、ぶつかったりして危険ですからおやめください」の構内放送で、さすがにゾンビの姿は激減した。激減……、それでもゾンビをやめない人がいたから。
次に乗り換えた電車は、混み具合はそこそこだった。
私はシートに座って、意地悪な目つきで向かい側のシートをチェックする。
座っている7人のうち6人がゾンビだった。若者だけでなく、結構なオジサンもいた。
「何だかなァ! せめて電車の中だけでも、文庫本でいいから内田康夫を読めば」と、私の意地悪な目が、ゾンビでない1人の視線とぶつかった。柔らかな眼差しだった。私の意地悪婆さんぶりを面白がっていたに違いない。
でも私のジロジロやキョロキョロはやめられない。だって、こうしてブログの材料になるし、ときには短歌のテーマにつながるから。