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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

止まっていた時間

2016.4.24 Sun

本当にちょこっとの里帰りだった。
軽井沢は春爛漫。コブシにサクラそしてレンギョウなど春の花々が、それこそ我が世の春を謳歌していた。しかし町よりも高台の我が家あたりは、まだ緑の気配だけで、春爛漫まではもう少し時間がかかりそうだった。
防犯カメラを意識しつつ、キャリーの『永遠の寝室』に「ただいま!」を言ってから我が家に入った。我が家に入ったのは半年ぶりだ。
お風呂場に干してあった洗濯物を半年ぶりに片付けてから、閉めてあった夫の書斎を開けて、思わず涙がこみあげてきた。
そこには調べかけの資料が広げっぱなし、コピー用紙に走り書きしたメモなどが出窓にあったりして、突然の発病で慌てて上京した後の時間が止まったままだった。
病気はなぜ『孤道』を書き上げるまで待っててくれなかったのだろう。そして多くの家族が思うことなのだろうけど、なぜ病気は夫を選んだのだろう。
このあいだ夫は「光彦は……、兄の刑事局長である浅見陽一郎に……」と寝言を言っていた。
そして「早く現場に戻らなくては……」と、やはり気になっているのだ。
浅見光彦記念館やティーサロン「軽井沢の芽衣」では夫の代理は出来るけれど、夫の小説は誰も代理で務まるものではない。
ちょこっとの里帰りは、かなり切ない時間だった。

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2016.4.20 Wed 久しぶりの……