内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
口笛
2019.10.30 Wed
私の父は、指笛が上手だった。外国人が親指と人差し指を丸めて唇に当てて、「ピーッ!」とやるあれ。
私は口笛も吹けない。唇を尖らせて吹いても「スー スー」と息が漏れるだけなので、むかし父に指笛を教えてもらったことがある。結果は「フーフー」。
夫は口笛が上手かった。口笛で曲も吹いていて音程もしっかりしていた。
散歩をしながら口笛を吹くと、小鳥がそれに応えて「ピッピリピーッ!」と、一人と一羽は応え合って穏やかで平和な明け暮れだった。
私は一人ボッチになって寂しくて、側にいるのなら合図をしてと毎日夫に話しかけている。
思い込みだろうけど、時々耳鳴りかどうか「ピッ!」という音が聞こえる。うれしくて「アッ、そこにいるんだ!」と声を出す。私も口笛が吹ければ、それに応えるのだけど吹けないから……。
例えば家のどこかにカメラを仕掛けてあったら、私はただのボケばあさんの独り言だろうなと、自分でもおかしい。
今日、お手洗いに入っていたら「ピッ!」。いくら夫でも「ここはダメでしょ」と言いながら、でも夫はいつも側にいるのだと勝手に思い込みだけど嬉しかった。