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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

今年も終わる……

2023.12.13 Wed

大好きな軽井沢暮らしだった。軽井沢の森の中での静かな暮らしは、ほんとうに心を穏やかにしてくれた。夏の森の中はそれなりに都会の風が吹いて「ごきげんよう!」の世界を味わえていいのだが、夏以外の三季(四季から夏を引いて……)は別荘の窓灯りは消えそれぞれの駐車場の高級車も姿を消し、毎日が自然に溶け込んだ日々だった。
あの頃……、リードを外されたキャリー(我が家の溺愛犬のコリー)は、長い毛をなびかせて全速力で森を走り、夫と私は目を細めて我が子(我が犬)をみつめて穏やかな日々をおくっていた(因みにキャリーの本名は『クラリス・フォン・アインベルク』で、馬の骨と牛の骨の夫婦から生まれたやんごとない姫君だったのだ。それで私たち夫婦は、どっちが馬の骨でどっちが牛の骨かで揉めていた)。
1995年にキャリーが逝って23年余りが過ぎて、今度は夫が逝って私の軽井沢での穏やか日々は終わってしまった。
夫のいない軽井沢は、あまりに寂しすぎる。
夫が逝ってから私は、東京での時間が増えた。でも……、心はいつも軽井沢の森に飛んでいた。
散歩のときに出会うカモシカ。枝を渡るリス。夜、我が家の周りを徘徊するキツネ(そのうち徘徊するのは私になるかも)。
軽井沢の森が好きだ。それで久しぶりに晩秋の軽井沢で過ごすことにした。
葉が散って寒々しい森。でもそれがまた素敵だ。
夏の軽井沢の爽やかさは誰でも知っている。だけど冬の軽井沢は寒い。その凜とした寒さがまたいい。
私たちが軽井沢に移って来たころの軽井沢の冬の最高気温が、マイナス7℃という日があり、夜の最低気温がマイナス20℃という日もあった。
しかし寒さもまた四季の一つであると思えば、『氷の季節もまた楽しからずや』と、二人して冬の軽井沢を楽しんでいたものだ。
思い出を辿るというわけではないけれど、一人で散歩をしていたら、側溝の内側を走って来る黒い影がいた。タヌキだった。一瞬だけど目が合った(……ような気がした)タヌキは可愛いけどちょっと間抜けな顔をして通り過ぎて行ったけど、もしかして私のことを「ボケーッとした、間抜けな顔」と思っていたかも。
そして庭の北側に黒豆が大量に落ちているではないか。「黒豆だったら丹波よねぇ」と思い、そのまま放っておいた。
あとで気がついたら、それはカモシカのフンだったのだ。三季に森の道を歩いていると、時々カモシカに出会う。きょとんとしたような、キャリーのような可愛い目をしたカモシカが、我が家の庭を横切ったついでに、お土産を置いて行ったらしい。可愛いけど、我が家の庭でフンはやめて欲しい(まァ!人間のよりはいいけど)。
そういえばシカのフンつながりという訳でもないけれど、吉永小百合さんの若い頃のレコードで、♪フンフンフン……シカのフン♪という歌があったことを思い出した(関係ないけど)。
今年も終わる。早いなァ! 年を越したら仏教で言うところの夫の7回忌だ。
やっぱり時間の流れは早い。温暖化のせいで、地球の回転が速くなったとしか思えないくらい時間の流れは速くなった。
私……まだ38歳のつもりでいたのだけど……って、ジョークの言い納めです。
みなさま、よいお年をお迎え下さい。私も穏やかな年を迎えるつもりです。

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