内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
さりげなく……
2016.12.31 Sat
本当に! 本当に今年も終わってしまう。去年もそうだったけれど、今年もただ夫のそばについているだけの1年で終わってしまう。
夫の心の中は見えないけれど、やはり寂しさは感じているようだ。
このところの寒さで散歩はどうかな? と思う。だけど外気に触れ、他人さまの動きを見るだけでも刺激になるかもしれないから、まるで南極探検にでも行くような格好で散歩に(車椅子だから散車?)つれだした。
木々は完全に葉っぱを散らし、芝生は枯れて、文字通りの『冬ざれ』た風景だ。
「寂しくなったね」なんて、この風景に老夫婦の語らいはぴったしカンカン……かも。
「軽井沢で、キャリーと三人でよく散歩したね」と夫がうっとりと昔を懐かしんでいる。
『浅見光彦倶楽部』をつくってなかったら、三人の穏やかで静かな時間がずっと流れていたかもしれないと、私が愚痴っぽくいうと、夫はしばらく黙ってしまった。そして、ポツンと「日常のさりげない幸せって、過ぎてしまって初めて気がつくものなんだね。ずいぶん迷惑をかけたね」だって。
言うな! そんなやさしい言葉をいまさら! 泣いちゃう……。
過ぎてしまった時間はもどらないし、人生に『何々してたら』とか『何々だったら』ということはあり得ない。『倶楽部』があったからこそ多くの出会いがあったし、多くの経験もした。充分幸せな人生だった。
『あった』とか『だった』と、振り返るだけの残り少ない時間。
間もなく今年も終わる。やっぱり寂しいな。
皆さまにとって、新しい年に『さりげない幸せ』がたくさんありますように……。私も『さりげない幸せ』を感じる年にします。
来年もエッセイ「早坂真紀つれづれ」を、さりげなくがんばります。