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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

冬の音

2024.1.13 Sat

コロナ禍でビクビクしていた日々から、やっと普通っぽい暮らしが戻ってきた。
……とは言っても、私は行く先によってはマスク着用と帰宅してときの手洗いなど、まだまだ用心しながら暮らしている。コロナワクチンだって、7回も打った。
社会では、会社の仕事の内容によっては、週3日出勤すればいいというリモートワークが定着したらしい。リモートだの何だのと、私、『現役』でなくてよかった。着いて行けない。何しろ未だにガラケー人間なんだから。
しかしガラケーながら東京軽井沢間のチケットは自動券売機を利用するし、タクシーやスーパー・コンビニなどの買い物など、そして美容院だって勿論キャッシュレスで、そのくらいなら世の中に着いて行ける。
コロナ以前、我が家あたりの別荘は、秋風とともに人気(漢字はややこしい。これはニンキじゃなくて、ヒトケだから)がなくなっていたのに、今では週の3日だけ東京に帰り、あとは森の中で暮らす人が増えた。のんびりと散歩をしている姿をよく見かける。
我が家のある森は小高い丘というか小高い山だから、なだらかなアップダウンが多く、やや早足で歩くとかなりのエネルギー消費につながる。それで私も軽井沢に帰ると、体重を増やさないためにほぼ毎日散歩をする。
今では散歩の途中で出会った何人かと、立ち話をするようになった。小さな犬連れの男性に「もう東京にはお帰りにならないのですか?」と聞くと、浅間山が初冠雪したら東京に帰るとのこと(おしゃれ!)。どうりで最近、姿を見なくなった。別荘として建てたので、寒い冬には向かないのかもしれない。
私たちが軽井沢に住まいを移した最初の冬は、あまりの寒さにびっくりしたものだ。しかしこれも日本の四季の一つだと視点を変えたら、白く寒い軽井沢の森の暮らしがとても素敵だと思えるようになったものだ。
寒さが音を吸い込むのか、文字通り「シーン」という音が聞こえそうで、いや!耳を澄ましたらほんとうに聞こえている。
いまでこそ地球温暖化で軽井沢の気温も上がったが、私たちが移住したころの冬の最低気温はマイナス20℃、最高気温がマイナス7℃なんて日も珍しくなかった。夕方近くになると「シンシン」という音が聞こえるほど冷え込み、朝、窓を開けようとしても、凍り付いた窓はお昼近くまで開かない。
「ハラハラ」と雪は降り、積もった雪の重さでしなっていた枝が、その重さに耐えられなくなって雪を振り落とすときの「バサッ!」という音が、唯一冬の森の音らしい音だ。
以前は素敵だと感じていた冬のそれらの音も、今の私にはちょっと寂しすぎる。