内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
江田島……
2022.1.30 Sun
寝る前の読書タイムで、いま何度目かの祥伝社版『江田島殺人事件』読み返している。
これから内田作品を読もうかなと思っている人に「お薦めは?」と聞かれたとき、「たくさんありますけど……」と自分の好きな作品名を言って、その中に『江田島殺人事件』も好きです。この作品のラストがいいのですよねと。そして『竹人形殺人事件』のラストも好きなことを付け加えている。
その『江田島……』を読み進んで35ページから36ページにかけて、私の胸も熱くなっていた。
もちろん軍国主義を否定しながらも浅見は、特攻隊の『彼らのほとんどは成長期を生きただけで、人間として本来、与えられたはずの人生の大半を生きないまま死んでいったのである。それが無念でないはずがない。その無念を言わず、あとに残る者たちを信じて死地へと向かったのだった……』と、胸を熱くしているのだ(内田作品はやっぱりいい!)。
私も大袈裟に言えば、今の社会はその若者たちに応えるような社会になっているだろうかと、真面目に考えているうちに目が冴えてしまった。
全体主義はいやだし極端な個人主義もいやだ。才能と努力でチャンスを掴んで成功した人と平等を求めるのもいやだし、権力者が勝手なことをしているのに直接自分には関係ないからと、その振るまいに目をつぶっているのもいやだと言いながら、私は目をつぶっているのかもしれない。
優れているとは言えない頭で支離滅裂なことを思いながら眠れなくなるなんて、基本的に私は真面目なんだなアと自画自賛。
自画自賛しながら、結局いまのは日本は、國のために散って逝った若者たちの命を無駄にしているのかなと、ささやかに反省していた。