内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
夏の風物
2021.7.25 Sun
軽井沢にいる今、生命を維持するための買い物と事務局・芽衣に出る以外、私は日がな一日窓から外の景色ばかり見ている。いま窓の外は緑・緑・緑。息苦しいほどだ。
この5月、植木屋さんに植栽してもらったばかりの、名前も知らない木に3粒の赤い実がついていた。東側の窓のすぐ側にある木で、何の実だろうと毎日楽しみにしていた。
徐々に赤みが増してくる。たまらず庭に出てみたら、小鳥が食べてしまったらしく実は消えていた。
南側の木の枝々に緑色のツブツブが見える。木の実かなと思ったら、花のつぼみらしく日ごとに膨らんでくる。そしていつの間にか粒が白っぽくなり、一輪・一輪と花が開き始めた。白い夏椿だった。
椿の一種だから、散る時は花びらが一枚一枚散るのではなく、ボトンッと花の形ごと散るのだ……と、ここで『椿三十郎』という映画を思い出した。これは赤い椿だが、隣の敷地から続く小川に、次々と流れてくるシーンを。
夏椿は背が高くなるので、そのうち地に落ちている花しか見られなくなるのかもしれない。それにこの別荘地には小川がないので、地べたに落ちている花しか見られなくなるのだろう。
コロナ感染者がウナギ登りだ。軽井沢の道路もスーパーも、ショッピングモールの駐車場も(私は行ったことはない)県外ナンバーの車で埋まっている。
緊急事態宣言のせいだと思うのだが、我が家の周りの別荘に車を見かけない。子どもたちの声もない。東京で息を殺して生活しているのだろうか。
夏の風物詩も、今年は森の木々の移ろいだけなのかな?
青い空の下、すっかり雪の消えた浅間山の稜線がきれいだった。