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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

困ったもんだ

2023.11.13 Mon

新しい物の好きの夫は、ワープロが世の中に出たほんの初期から愛用していた。
出始めのころのワープロはかなり大きく、たぶんキーの部分と画面は別々になっていたはずだ。
私の母から電話があった。「国民百科事典(?)に康夫さんのことが出てるわよ」と。ワープロという項目のところに『ワープロ作家』内田康夫……とあり、誰だったかもう一人の名前が出ていた(母は国民百科事典の愛読者?)。
そのうちパソコン市場が圧倒的に大きくなり、ワープロそのものの生産が中止になった。部品も品切れになって、夫は仕方なくパソコンに換えた(何代目かのワープロは、『浅見光彦記念館』に展示してある)。
長いこと親指シフトのワープロをつかっていたので、パソコンに転身(?)したときは、ちょっと苦労をしたようだ。しかし彼のことだから、すぐマスターしてしまったらしい。
私がワープロを使い始めたのはコンパクトになってからだ。ワープロ使用は夫より遅かったが、パソコンに転身したのは、夫より早かった。
ワープロは便利だった。軽井沢と東京と両方にワープロを置いてあったので、移動するときはフロッピー1枚を持ち歩けばよかったのだ。
パソコンはワープロのようにフロッピーがあればいいというわけにはいかない。
移動の度に持ち歩かなければならない。
私のパソコンはノート型で、それも小型だ。それでもかなり重い。
以前はフロッピーを入れたハンドバッグ一つで身軽に東京軽井沢間を行き来していたのに、いまではハンドバッグ以外にも重いパソコンを持って、その重さにしかめっ面をしながら行き来している。気取っている場合ではなくなった。
しかし……。
ワープロにしてもパソコンにしても、原稿用紙にひと文字ひと文字書いていた時と比べて、何と早く文章が書けることか。しかも打ち込んだ文字や文章を訂正したり加筆したりが簡単にできる。便利なものだ。
しかし、便利さは人間をバカにすることが分かった。文字をひらがなで打ち込んで変換キーを叩けば、かってに漢字にしてくれる。発音の同じ漢字でも、文章の前後のつながりで、ほぼ正確な漢字にしてくれる。
おかげで私は本当にバカになった。漢字が書けなくなったのだ。
「エーッと、エーッと……」と、漢字の大体の形は出てくるのだが、書けない。
最近ではパソコンで変換された漢字が、正しいのかどうかも不安になることも出てきた。
私が認知症になり始めたのか、便利さがそうさせたのか……。
それで私の家の各部屋に国語辞典を置いてある。「あれっ?」と思ったとき、すぐ調べられるようにしているのだが、その度数が増えた。
困ったもんだ……が、いいこともある。初めっから書けなかったくせに「パソコンばかり使っていると、漢字が書けなくなって困っちゃう」と言い訳にできるのがいいかァ!