内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
『あの人に会いたい』
2018.7.25 Wed
21日、NHKの『あの人に会いたい』を見た。
5時40分という早朝なのに、5時には目覚めて、20分ころからテレビをつけてスタンバッていた。
普段は5時半ころ目覚めてもベッドでウツラウツラしているのだが、この日は前の晩からリモコンをサイドボードに用意していたのだ。
『あの人に会いたい』
だめだった。テレビに夫の名前が出たころから目の奧がジーン、喉の奥がグビリ、心臓がキューン。
なんだか知らないけれど、恥ずかしいけれど、ほんとうに何だか知らないけれど泣きじゃくっていた。そんなつもりはなかったのだけど、子どもみたいに泣きじゃくっていた。
もう一つ恥を晒すと、夫の遺影をテレビの方に向けて抱きしめて泣いていた。
私は自分でもしっかりしているつもりだった。自分の気持ちはコントロールできるつもりだった。でもそれはあくまでも『つもり』だったようだ。
あと一度だけでいい、夫に会いたいと思った。もう一度だけでいい、片手でなく両手で抱きしめられたい、いや! あの日のように、車椅子に覆い被さる私に「ぎゅう、ぎゅう!」と言いながら、右手だけでもいいからもう一度抱きしめられたい。夫に会いたい。……と書きながら泣いてしまうのが情けない。なにがコントロールだ!
でも、『あの人に会いたい』を見たら、夫を知っている人だったら、少しは泣くと思う。
多分……、もしかしたら……、かな?……。
私、ほんとうに、もう一度でいい、夫に会いたい! そして言いたい。「私、本泣きしてるよ」って。
むかしキャリーが亡くなったとき、私は大いに泣いた。来る日も来る日も、夢の中でも泣いていた。
とうとう『ペットロス症候群』になり、挙げ句の果てには十二指腸潰瘍だって。立ち治るのに2年もかかってしまった。
そんな私を見て夫は編集者に「カミサンは僕が死んでも、泣いてくれるのだろうか」とこぼしていたそうだ。その時はふざけて「もちろん泣きますともォ!」と笑っていた。
現実になったら、やっぱり泣いた。今日も遺影を見てしまったら、また本気で泣いてしまった。
お風呂上がりに体重を計ったら、400グラム減っていた。涙の分かなァ? まさか『オットロス症候群』じゃないわよね。このごろ毎晩寝汗をかいているし(熱帯夜のせいだ!)。
いま部屋のどこかで、何だか変な音がした。夫が自分のためにカミサンが泣いているかどうかを確かめにきたのかも。
でも、まだまだ迎えにこないでね……とふざけながら、また涙ぐむ私が情けない。
(事務局注)再放送はNHK Eテレで7月27日(金)午後1:50~2:00の予定です。