内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
私の世界
2019.4.29 Mon
一身上にいろいろなことがあって気持ちにゆとりがなく、ベランダに積もった枯れ葉はそのままにしてある。
あまりにみっともなく掃除をしなくては……と思いつつ、最低気温がマイナスだった夜が明けても寒くて、ベランダ掃除は暖かくなってからとずっと放ってあった。
今朝目が覚めて遮光カーテンを開け、ベッドの中からガラス越しに空を見ていた。すると雨樋にひっかかってぶらさがっている枯れ枝から、すうっと光りながら落ちていったものがあった。朝日に輝きながら水滴が落ちて行ったのだった。
ウワッ! 私の世界!
一人ボソボソと朝食を済ませ(これは人生設計の中には書いてなかったけれど)、掃除しなくてはなアと思いながら(これは思うだけ)、ベランダの落ち葉を見ていたら、なにやらゴソッと動くものがいた。シジュウカラが、たぶん枯れ葉に住み始めた虫をつついていた。私に見られているのも知らず、夢中で朝食を摂っている。
ウワッ! 私の世界!
軽井沢にサルが出始める前に買ってあったヒマワリの種がふと頭を過ぎったが、ダメッ!
目ざといサルが来るからと、止めた。
サルは私の世界には住まわせない生き物だ。本人のせいではないけれど、朝から飲んできたような赤い顔と、落ち着きのない抜け目のないような目がいやだ。うちの屋根瓦を壊したりベランダで○○○をしたりetc.……だいいち、サルはもともとは軽井沢にはいなかった動物だし……って、私ももともとは軽井沢の人間ではなかったっけ。ゴメン!
軽井沢の遅い春に、やっと緑の芽吹きが始まった。木々からいっせいに芽吹く葉っぱたち。
カツラの葉も小さいくせにハート型の葉を幹につけているし、モミジだって小さなお手々を広げた形で、枝々から空を掴もうとしている。
ウワッ! 私の世界!
「あんたたち生意気ね!」といいながら、私は何年ぶりかで私の世界に漂う。
この子たちがたまらなく可愛い。