内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
アン・シャーリー
2017.4.30 Sun
30年ぶりで『赤毛のアン』が実写で映画化されたようだ。原作者ルーシー・モード・モンゴメリのお孫さんが来日して、アンやマシュ-そしてマリラの老兄妹クスバートについて語っていた。そしてもちろんカナダのプリンスエドワード島の『世界で一番美しい島』の風景が……。
私、ずいぶん昔から「私はアン・シャーリーの生まれ変わり」と公言していたのに、すっかり忘れていたことを思い出した。
私はアン・シャーリーだと思っていたから軽井沢に引っ越して、毎日軽井沢の森の中の生活を楽しみ、『クスバート』という感動の度合いを表す単位(*)まで作っていたのに。
現実にすっかり埋没して、気持ちに潤いがなくなり、すっかりフツーの老人になっていた。
辛いことや哀しいことがあっても、だからこそ『空想』が現実を乗り越えさせてくれるのに。
そのことをすっかり忘れて、キツキツの現実に溺れていた。
むかし、若い頃、夫と知り合ったころ、夫は私がアン・シャーリーでいることに面白がっていたのだ。「精神年齢が13才で止まってしまった」との母の言葉に同調さえしていた。
それなのに……。
希望は持っていても潤いのない毎日。私よりも夫のほうが辛いはずだ。介護される方はキツキツよりもユルユルのほうが、希望が持てるはず。
私もしばらくは東京の暮らしが続くだろうけど、都会の隅っこやバス停、駅のホームの端っこにも身を潜めているはずの『クスバート』を探す……というより感じるようにしなくては。
過去、10回以上は読んでいる『赤毛のアン』を、夫のためにももう一度読み直そうっと。
事務局注)
*早坂真紀著『軽井沢の風だより』参照