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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

トシ

2017.11.5 Sun

タクシーを止めたら、初老の運転手さんだった。行き先を伝えて、しばらくはお互いに沈黙!
タクシーに乗ると、運転手さんによっては話しかけられたくないタイプと、楽しいタイプとがある。それは私の精神状態によって変化するのだろうけれど、今日はやや落ち目だった。
町を行く若者たちが、みんな同じに見える。男も女も目が悪くなりそうなほど前髪を伸ばし、額だけでなく顔を包むような髪型が流行っているようだ。あれは小顔に見せるためなのだろうか。
小顔に見えたって、元々の顔の大きさは変わらないのに……。
ふと私は運転手さんに話しかけた。
「むかし父に、御三家(西郷輝彦・橋幸夫・舟木一夫)の顔の区別がつかないと言われて、エッ?と思ったのですけど、私は最近のタレントさんの見分けが付かなくて、トシをとったってことでしょうね」と言うと、その話に乗った!とばかりに、おしゃべりがはずんでしまった。
「48人だか何人だかの女の子のグループがいろいろあるけれど、あれも誰が誰やらわからんし、個性個性と言っているけど、あれは個性なんてものではないですよ。その女の子と握手をするためとか、いい若者が女の子の人気投票のためにCDをたくさん買うという神経も理解できない。あげくの果てに、その大量のCDを山ん中に捨ててあったって……」
そして、そんな子が将来の日本を背負うのだから、もう日本も終わりでしょうなア! 昔はそんなことなかった、昔はああだった、こうだったって二人して嘆いていた。
「でも運転手さん、昔は昔はって、そんな話になるのはもう私たちって未来が少なくなったってことですよ。過去ばっかり増えちゃって」と、ゲラゲラ笑ってしまった。自嘲が含まれていたかも。
そして「このハゲェ!」だの「一線は越してない」だの、日本は上から下まで下品な国になったって、嘆き節。
「もう私も終わりですよ」って言うから「終わる前に『お墓』の準備はしてあるのですか?」と聞くと、してあるそうだ。
私?……、まだしてない。

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