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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

香り

2016.10.3 Mon

風に乗って、どこからともなく香りが漂ってくる。もうかなりの距離を歩いているはずだが、香りは夫と私をどこまでも追いかけてくる……と思ったら、キンモクセイだった。
キンモクセイはよく庭木にされる2~3メートルの常緑樹だ。道路沿いのお宅の庭のあちらこちらで、金色というより、オレンジ色の肉厚の小さな花が枝々にたわわに咲いていた。追いかけられているのではなく、私たちは香りの中を歩いていたのだった。
キンモクセイは香りが強いので、よく芳香剤に使われている。
私はもともと『芳香剤』はあまり使わない方だけど、むかし一度だけ使ったことがある。
40年ほど前、夫が熱を出して寝込んでしまったことがあった。拭いても拭いても汗をかいて、いわゆる病人の臭いが部屋にこもっていた。それで思いついてキンモクセイの芳香剤を買ってきたのだ。
「キンモクセイの香りを買ってきたから……」と言うと、夫は「キンモクセイなんてやめろよ」と、ちょっと笑いながらキンモクセイの名前が好きではないと言う。芳香剤はそれ以来二度と買ってない。
香りの中で、夫は又そのことを思い出すかな?と思ったが、目を細めて散歩を楽しんでいるようだった。
私は私で、秋が来てしまったのだなァ!と、ゆっくりゆっくり車椅子を押しながらちょっとため息をついた。

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