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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

メリーゴーラウンド

2017.5.3 Wed

たまたま見たNHKのテレビ番組で、メリーゴーラウンドが出ていた。
絵本で見るような、派手というかむかし風というか、ちょっと郷愁を誘うようなメリーゴーラウンドだった。
そう! 私は昔からメリーゴーラウンドに乗りたくてたまらなかったのに、まだ一度も乗ったことがない。右手で棒につかまって、左手でつば広帽子を押さえて木馬に横座りしてうっとりしている姿を、どのくらい夢見ていたことだろう。
その夢が実現しかけたことがあった。あれはワールドクルーズで立ち寄った、オンフルールだった……かな? もしかしたらル・アーヴルだったかな?
『オンフルール』だの『ル・アーヴル』だなんて、自慢たらしく気障だったかも……。
ま、とにかく古い港町だった。
船を下りて少し歩いたところの広場に、メリーゴーラウンドがあった。
セーヌ川の河口近くの閑散とした古い港町っていうだけでも、絵になるしロマンティックなのに、そこに忘れられたような古いメリーゴーラウンドがあるなんて……。おまけにカモメは飛んでいるしヨットは係留されているし、なんて素敵なの?
もちろん私は長年の夢を実現させようと思った。でも連れが悪かった。冷たく一言、「みっともない、やめなさい!」。そしてスタスタ行ってしまう。
こんなところで一人置いていかれたのでは、私には漁師は無理だ。食べていけない。
それっきりメリーゴーラウンドの夢は消えていた。でもテレビで見て、うっとりとまた夢に漂っているなんて、いいトシをしてバカな私。でも死ぬまでにチャンスがあったら乗ろうっと!
……ふと思い出した。むかし『回転木馬』という映画があった。ミュージカルだったかな? 内容は覚えてないのに、見た、ということを思い出した。
メリーゴーラウンドに乗りたいと思い始めたのは、その映画のせいだったのだろうか。

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