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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

2017.7.29 Sat

小学校の何年生だったかは覚えてない。私はちょっと頭が痛かったけれど、大したことはないので我慢して登校した。我慢していたけれど、その我慢が態度に出ていたらしい。先生に「どうしたの?」と優しい言葉をかけられて、思わず涙がでてしまった(それで家に帰されたかどうかは覚えてない)。
優しさは、人の心のたがを緩めてしまう。もっとも人の同情を引くために涙ぐんでみせることができる人もいるようだけど(この手に引っかかる男性もいるようだ)。
いまさら私が涙ぐんでみせても、誰一人気付いてくれないと思うけれど、最近の私はよく泣く。優しい言葉がなくてもよく泣く。元気だったころの夫の写真の笑顔を見ただけでも泣いてしまう。
今日も朝からよく泣いた。
夫はやはり小説が書きたいらしく、時々ストーリーらしきものが浮かぶと、私に内容を話してくれる。でも長くは続かない。エッセイや私小説のような小説と違って、ミステリーはそれプラス事件の整合性が必要とされる。事件解決へ向かって緻密な計算が必要になる。夫の作品には歴史や時事問題、地方の文化などが絡んでくることが多いから、自分で話しているうちに分からなくなり、焦れてしまうようだ。書いたりパソコンに打ち込んでいればいいのだけど……。
脳梗塞という病気は、ご存知のように左右のどちらかの半身にマヒが残ることがある。夫の場合は左だ。
昨日は、不自由になった左腕と左手を、そして焦れている夫を見ているうちに、私はかなり辛くなり泣きそうになるのをじっと我慢していた。
でも「なんで怖い顔をしているの?」と聞かれて、堰が切れてしまった。抑えようとしても、涙は勝手に溢れてくる。じわじわ湧いてくる。
「だって暑いんだもん。目に汗をかいっちゃった」と、まるで青春映画みたいにごまかして、「バーカ!」と二人して大笑い。
右手で私を抱きしめてくれるけれど(人前ではそんなことは絶対しない)、私としては両手で抱きしめられたい。
そして今日、昨日のことを思い出し、こっそり一人泣き。
書きたいテーマが、まだたくさんあり、『孤道』の次の作品の取材だってしてあったのにと、残酷な病気に天を恨み、思い出してはまた一人泣き。いやになっちゃった。

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