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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

森の暮らし

2025.2.13 Thu

避暑地だから冬が寒いのは当たり前で、だからこそ、その冬ざれの軽井沢がまた素敵なのだ。
別荘族が都会に帰って、しんと静まりかえった森。枯れ枝の隙間に浮いている白い月……。
そして朝、目覚めて真っ先に防犯カメラのチェック。我が家の周りを決まって徘徊しているキツネの姿が楽しい。我が家の庭を、無断で横断しているカモシカもいたりして、今朝は夫婦だろうか、二匹のタヌキがウロウロついている姿が映っていた。
そして時々散歩をする私の頭の上で、枝から枝へとリスが渡って行くこともある。静かになった森で、動物たちが安心して姿を現しているのだ。
しみじみと「自然っていいなァ!」と感動していた。でも軽井沢に住んでその『自然』に慣れてしまうと、自然の素敵さやありがたさを感じなくなるのかもしれない。軽井沢も宅地化が進んで、残念なことに自然も減ってきた。
40年ほど昔、軽井沢に移住したころは、このあたりはまだ別荘もまばらだった。毎晩のように「ピー!ピー!」と笛を吹いているような鳴き声が、我が家の周りから聞こえてくる。それが夜鷹と言う名の鳥だと知るまで、ちょっと不気味だった。
時代劇で、夜、橋の下でゴザを持って『春』を売る女性を夜鷹と称ぶのは、この夜行性の鳥からそう称ぶようになったのだとか。
軽井沢の冬は寒い。寒いからまた素敵なのだが、森の中の我が家は標高が高いぶん町なかよりも1~2℃寒いと思う。
住まいを軽井沢に移した40年ほど昔、「軽井沢に永住だなんて……。1年で逃げ帰ってくるんじゃない?」と言われていたようだ。それがもう40年過ぎただなんて信じられない(当たり前だけど、私は40歳もオババになったということで、夫なんて私を残して逝ってしまったんだものね)。
軽井沢に移ってから初めて見た冬の自然現象。霧氷、木の葉や草の葉を縁取っている霜(?)、家の北側の屋根と地面につながっている氷柱、強風に地面から巻き起こるブリザードのような粉雪、木々の枝を包む氷……。
そんな自然現象が無くなって何年経つのだろう。コロナ禍以降、在宅勤務が増えて、森の空き地だったところの殆どに家が建った。週の2~3日を東京で勤務して、あとは冬ざれた森の中でのリモートワークだなんて、時代も変わったものだ。定年退職後に永住するお宅も何軒かあるようだ。
そういえば子ども軽井沢の小学校に転校させ、森の暮らしをしているお宅もある。森の暮らしも随分変わった。
もしかしたら私たち夫婦は、時代の先取りをしていたのかもしれないけど、軽井沢から自然を無くす『元』を作ったのかもしれない。。