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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

明日香の皇子

2018.6.7 Thu

夫が逝ってからそろそろ三ヶ月。
法的な事務処理はまだ終わってないけど、3年半の介護で夫のために生きてきた時間がすっぽりと空いてしまった。
これからは、ゆっくりゆっくり自分のためだけの時間を取り戻すつもりではあるけれど、何をどうすればいいのかまだ手探り状態だ。まァ、ギスギス・イライラしない時間が、私にとって無駄じゃない時間なのかもしれない。
あの頃は夫の心を守ることで必死だったから、とにかく義務で食べ義務で寝て……と、心に余裕はなかった。誘眠剤を飲んでも2時間毎に目が覚めていた状態から、今は『2時間毎』がなくなってきた。
切なさ哀しさは大量に残っている。しかしもう私の介護を待つ人はいないんだという一種の安心感からか、まだ誘眠剤のお世話になってはいるけれど一応続けて5時間は眠れるようになったようだ。
私の精神状態に気を遣ってくれている友人に「うん! 表情が柔らかくなってきた」だの、「あれェ、想像していたより元気そうだ」と、お 墨付きももらった。
それで取り敢えず寝る前の時間を読書タイムにしようと思った。
この1年は短歌に関する本を読み漁っていたけれど、それも終わってまず読み始めたのは『明日香の皇子』。
もともと好きな作品だった。でもほぼ35年ぶりに読み返し始めて、びっくりした。
まだ4分の1程度しか読み進んでないけど、まったく古くない。話の中に携帯電話がなくても、上野の西郷隆盛像あたりの風景が変わっていても、道路事情が変わっていても内容が全然古さを感じさせない。それはいま夏目漱石を読んで「古い!」と思わせないのと同じレベルだった。
古さを感じさせないどころか、第二章あたりの内容は現在そのものではないか。改めて『内田康夫』という作家の凄さを思った。親から子へ、子から孫へと世代を超えて読まれている訳を納得した。
中学生や高校生の読者が「母(又は祖母)に、これ読んでごらんと薦められて、内田作品にハマりました」と言っていたのだ。
その時私は、減りつつあるかもしれないけれど、紙の本は永遠だと、少し安心した。
執筆中に実際にテポドンが飛んできたり、『神の手』事件が起きたり(どの作品かは、ご自分で調べてください)、時代や事件を先取りし、奧深く表現する作品は必ず読み継がれていくと。
エンターテイメントでありながら、社会的な問題提起をさりげなく盛り込んでいる。
『六基の井戸を掘る権利をめぐっての汚職事件』などと、固い内容をダジャレで読ませてくれる作家『内田康夫』が、私の夫であったのがうれしい……って、惚気と本音です。

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2018.6.10 Sun 明日香の皇子……II

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2018.6.4 Mon ゆっくり!ゆっくり!