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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

春はたそがれ

2020.4.21 Tue

紫式部と清少納言とどっちが好き?と、高校時代から友だち同士でそんなことを言い合っていた。
別にこの2人と付き合いがあったわけではないけれど、そして『源氏物語』や『枕草子』をちゃんと読んだこともないけど、私と気が合う人は殆どが清少納言だと言う。紫式部の女女しているところが好きになれない……と。
「だって、あれは恋愛小説でしょ!」と、色気もない、恋愛の経験もない高校生の生意気盛りな意見だった。
そして芸能界の話になって「女に嫌われる女に、何故か男は引っかかるのよね。あのシナシナした態度が餌だって、気が付かないのかしらね」。
私も清少納言派だ。私もたぶん女としての色気がない……と、それはどうでもいいけど。
清少納言の『枕草子』の出だしは「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少しあかりて……」と、彼女の感性の豊かさと、美しい語彙に憧れてしまう。
それで私は窓際に立って清少納言になったつもりで、暮れゆく空を見ていた。
私の家は南向きで南西の角に窓がある。木々の葉が芽吹くまでは、浅間山が雄大な姿を見せてくれる。
春はあけぼの……って、我が家の東側は木々の間に隣りの別荘があるからなァ! 山もないから、むらさきだちたる雲なんて見えないし。
それで我が家の枕草子は「春はたそがれ」かな?
太陽が西に傾いて、少しずつ浅間山に近づく様子は「いとをかし」なのだ。
太陽が空を茜いろに染めながら山の向こうに隠れてしまうと、浅間山が真っ黒なシルエットになる。残雪だって真っ黒になる。茜色の空にそびえる真っ黒な浅間山は雄大で美しく、私はうっとりと「いとをかし! いとをか
し!」と立ちすくんでいる。
自然の美しさにはかなわないなァ!
「夏はよる……」って、月はまあ「さらなり」だけど、我が家のあたりにホタルはいないし、飛び交っているのは『蛾』だからなァ!
夏になったら、また素敵なことを探そう。

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