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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

移ろい

2020.11.24 Tue

あんなに鬱陶しいほどに繁っていた木々の緑が、すっかり散ってしまった。
私の頬があめ玉を含んだように垂れ、まぶたが目にかぶさってくるだずだ。時間は流れて季節はまた移ろっていた。
朝、チーズと杏ジャムをはさんだパンを頬張っていると、小枝に残っていた最後の枯れ葉がチラチラと舞い落ちた。オー・ヘンリーかと見ると、昨夕、夕日が稜線を茜色に染めていた黒い浅間山が、朝日に赤く染まっていた。
赤い富士山の写真はテレビなどでよく見るが、あれの浅間山版だった。裾野の端までが赤かった。感動してふと気が付いたら、杏ジャムがベトッとスカートに落ちていた。
噴火の灰が降ってきたり硫黄の臭いを嗅いだり、初冠雪を見て寒さに首をすくめたりして30何年も軽井沢に住んでいたのに、朝日に染まる浅間山を見たのは初めてだ。自然がどうしたこうしたと騒いでいるわりには、何も見てなかったのだと、私の感性もその程度だったのだとがっかり。
大した感性ではないけれど、足音をたてないでやってくる冬の足音は、しっかりと聞こえている。
また一年が過ぎるか!

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2020.11.18 Wed 生命力