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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

3月13日

2023.3.8 Wed

夫の作品を何度読み返しただろう。
元々私の読書タイムは、就寝時のベッドの中だった。しかし介護をしていたときは心身共に疲れ切っていて、読書どころではなかったし、2018年3月13日に夫を見送ってからしばらく虚脱状態だった。
一応現実を受け入れるようになって(……と、女々しいけど、本心ではない)、夫の作品を読み返そうと手にしたのは『若狭殺人事件』だった。
読み進むうちにふと目がとまった。3月13日という日付に、目が釘付けになった。ショックだった。もしかして夫がこの本を手に取らせた? なんてバカなことを思ったりしていた。しかし今、どんな設定でこの日が出ていたのか、改めて読み直したのだが見つからない。勘違いだったのだろうか。
しかし箸墓幻想・横浜殺人事件・長野殺人事件・菊池伝説殺人事件・追分殺人事件・還らざる道と、次々に3月13日が出てきた。
箸墓幻想では光彦がソアラで初めて奈良盆地に入った日。横浜殺人事件では浜路智子の父親が、外人墓地の石室に置いてあるノートにサインをしていた日だった。
長野殺人事件はこの日に死体が発見され、菊池伝説では『菊池12代目』が元弘3年3月13日に戦死している。
追分殺人事件では殺された男が持っていた、旭川から中軽井沢までの通しの切符の発行日が3月13日だった。そして還らざる道などは、プロローグの段階で3月13日に木曽川に乗用車が転落している。
このようにして私が今まで読み返した50冊あまりの作品の中の、7作品に3月13日が出てくるのは偶然かもしれないけど、私は何だか不思議なものを感じた。だって1年は365日もあるのに、3月13日が7回もあったのだし、おまけに読み返した順番に出てきたのだったから。
因縁とか霊魂なんてものは信じない私だが、それはたぶん、夫が私の手を取って作品を選ばせたのに違いないなんて、偶然を自分の都合のいいように解釈している。

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