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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

情けは人の……

2021.12.19 Sun

今ごろ軽井沢はすっかり冬ざれていることだろう。
凜とした青空に雪をかぶった浅間山が聳え、遠くに八ヶ岳連峰が白く輝いているに違いない。想像するだけで、ちょっと帰ってみたくなる風景だ。
森の中の道路は凍り付き、運転には細心の注意が必要になってくる。東京の道路はやれ右折禁止だとか進入禁止だとか、それよりも何車線もあるのが怖くて、東京では全く運転をしない私だが、積雪したり凍結した坂道は平気で運転できるのが不思議だ。
この10月に私はタイヤをパンクさせた。
買い物から我が家に帰る途中、広くはない森の道で向こうから車が来た。私はかなり左に車を寄せた。スピードを落としてなかったにちがいない、変なショックがあってパンッ!と音がした。しかしその音の意味を理解してなかった。
この先の左カーブを回れば我が家だ。あれっ? まだ直線なのに、いやにハンドルが左に取られる。ハンドルをしっかり握って我が家に着いて、ガレージに入れチェックしたら左前輪のタイヤが裂けていた。
パンッ!と音がしたのは、側溝避けのブロックに思い切りぶつけていたのだった。私、対向車に道を譲ってあげたのにな。
運転免許をとった年の冬、買い物帰りの雪道だった。森の中の道路は、ちゃんと除雪済みだ。しかし道路の両脇には除雪した雪が溜まっていて道幅は狭くなっている。向こうから軽トラが来たので左に寄った。ガクン!と雪で塞がっていた側溝に落ちた。私、対向車に道を譲ってあげたのにな。
10年ほど前の軽井沢の繁忙期。ランドクルーザーの大きな車が来た。ナビの発達で、地元民の生活道路とも言える細い道にまで大きな車が入ってくるようになった。
私は思いきり左に寄せて止まり、大きな車をやり過ごした。そして発車しようとしたら、ガリガリ……。ガードレールをこすっていた。
帰りに見ると、私の車の赤い痕がしっかり残っていた。赤い色の下に青い色や他の色もあって、対向車に情けをかけたのは私だけではなかったのだ。
しみじみと『情けは人のためにしかならない』と思った。

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