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内田康夫 夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

むべ

2020.10.25 Sun

朝食を摂りながらNHKを見ていたら、ブラウン管に薄紫の果実が写っていた。
あっ『アケビ』だと思ったらアケビ科の果実で、『ムベ』という果実だった。
むべ?……と、私は「むべ……、むべ……」と百人一首に『むべ』ってあったなとしばらく思い出そうと努力して、なんとか「むべ山風をあらしというらん」までたどりついたが、上の句を思い出せない。こんなとき夫がいればすぐ解決するのにと思ったが、むかし母に「聞けば答えはすぐわかるけど、すぐ忘れます。自分で調べたら、その知識は一生物です。自分で調べなさい」と言われたことを思い出し、朝食の途中だったけど、書斎にiPadをとりに行った。
ん? 床に何か落ちている。昨日掃除機をかけたばかりなのに……。拾ってみるとキビナゴだった。
妹が送ってくれたキビナゴの佃煮を昨夜食べて、こぼしていたらしい。トシはとりたくないものだと情けなかった。キビナゴは4匹が絡まって乾いていた。
そのまま「キビナゴ、キビナゴ……」と書斎に行けば落語だけれど、私はちゃんとiPadで『むべ山風……』を調べた。
調べてみたらすぐ思い出した。
『吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらん』だった。自分で調べたけれどトシだもんなァ! 夕方にはもう『むべ』自体を忘れてしまうのだろうなァ!
そういえば軽井沢に移住したころ、我が家の庭にアケビの実を見つけて食べたことがあった。実を割ったらフワフワした綿のようなものに包まれた種があったっけ。美味しいとは思わなかったけど、こうして昔を懐かしんでいるなんて、やっぱりトシなんだ。そんなことを思うのも「このトシだもの、むべなるかな……だよなァ」と、これはオ・マ・ケ。

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2020.10.19 Mon 顔も腕も