内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
今日から12月!
2017.12.1 Fri
高いビルの屋上から湯気が立ち上っている。ビルの本格的な暖房が始まったのだ。ああ本当の冬が来たのだなアと、最後の一枚になったカレンダーに胸がキュンとする。
このところ夫がいつ倒れたのか、事務局のスタッフに運転させていつ東京の病院に向かったのか、ヨレヨレのまま北区滝野川会館の『靖国への帰還』に連れていったのが何年前だったのか、軽井沢の『浅見光彦記念館』オープンの日、車椅子で顔見せをしたのがいつだったのか、時系列が分からなくなって。そのすべてが遠い遠い過去のような気がする。
目に見える回復がなくてちょっと疲れて、「私を幸せにするっていったくせに」と言うと、「ごめんね」と夫は哀しそうな目をする。
まア、言ってみれば今の私は、夫を守り療養のお手伝いをすることに幸せを感じていないこともないと思うけれど。でもやっぱり寂しい。
私がサマンサだったらな! 生涯で一回しか使えなくてもいい、魔法を使えたら、すぐ夫を元に戻すんだけど……。
紅葉・黄葉がきれいきれいとはしゃいでいたけど、葉が散り尽くし寒々しい風景になると、心の中まで冬ざれてしまう。
これから、やれクリスマスだお正月だと、町の風景やテレビは浮き立ってくるけれど、もう50年も二人で生きてきたのだから、そう! 私は夫を守りながら穏やかに新しい年を迎えるぞ!って、ちょっとキザかな?
でもやっぱり寂しい。