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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

なんで?

2017.12.12 Tue

東京郊外の、よく通る道路脇に桜の巨木があった。見た感じでは周囲2メートルはありそうな、幹のあちこちにコブコブがある古木だった。
春には満開の花が、盛りが終わるとハラハラと散って道路をピンクに染め、秋には葉が紅葉して目を楽しませ、心を豊かにしてくれた。
それが……、突然、姿を消していた。切り口が生々しく、年輪がその生命の長さを物語っていた。何百年もかけて育った生命を、1分かそこらで消してしまうなんて。
なんで? 通行の邪魔をしているわけじゃなし、いくら個人のものだと言っても、木だって生命でしょ!
またまたタクシーの運転手さんとの会話だけれど、最近は落ち葉掻きが大変だからと言って、落葉樹を切ってしまう役所が増えているらしい。
この春もイチョウの枝を払うのではなく、木自体を切り倒していたので、役所に電話をして抗議したのだけど返事はなく、役人に電話をしても、役人は『住民のために』は選挙の時だけですからって。
木には樹霊が宿るって聞くけど、そんな人にこそ霊が祟ればいいなんて、二人して物騒な話にまで展開してしまった。
関西の人が東京に来たとき、東京は樹木が多いってびっくりしていたのに、地球の温暖化の基本は『木』一本から始まるのにと、これでは異常気象になってもしかたない。
そういえば……、30年くらい前に、我が家の近くで別荘建築が始まった。
『森の中』の庭の木を、片っ端から切り倒していた。そのお隣の人が理由を聞いたら「私は虫が嫌いなので」と言ったそうだ。
虫が嫌いなのに、なぜ自然の中に別荘を建てるのだろうと、笑ってしまった。
第一、虫も住まないところに人間が住めるわけがない。人間の心が育つわけがない。
そして又……、ティーサロン「軽井沢の芽衣」でアリを見て「キャー怖い! 怖い!」と騒いだ女の子がいたっけ。多分に回りを意識して都会の女の子オーラを振りまいていたのだろうけど。
切り倒された桜の木に、私の性格が意地悪になっているかもしれない。

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