内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
まだ当分……
2018.4.9 Mon
夫が逝ってからそろそろ一ヶ月になろうとしている。
私は夫のことを、過少評価していたようだ。もちろん自分の身内を過大評価することが、いかにみっともないかを知っているにしても……。
作家は読者がいて成り立つ職業だ。だから出版社主催のお別れ会はお断りしようと、生前からの私との約束事だった。そのかわり読者とのお別れの場を、軽井沢の『浅見光彦記念館』に設けようと。
それが一日だけだと、仕事のある人や遠くの人は出席できない。だから記念館を一ヶ月オープンにして、行きたい人が行きたい時に献花できるようにしよう。
私は夫との約束を守った。でも夫のことを過少評価していた。
献花台を設置した初日の3月23日。平日にもかかわらず北海道や九州からと、なんと大勢の方がいらして下さったことか。そして2週間ちょっとで見学の方も合わせると1800人の方が……。献花の方は殆どの方が泣いて下さった。
夫はこんなにも多くの方たちから愛されていたのだった。夫は凄い作家だったのだ。
読者の方たちからの愛は、どんな賞にも勝る。私の胸は感謝とうれしさにパンクしそうだ。
でもでも……。私はまだ夫が逝ってしまったことを、現実として受け入れてない。
超事務的なことに振り回されている日々だけど、部屋に遺影やお骨があって涙ぐむ毎日だけど、それでも夫が居ないことを受け入れてない。
高校野球選抜の地方大会の第一試合からの、テレビ桟敷にダルマさん状態の姿がなくても、それでも私は夫の不在を受け入れてない。
今にも「ああハラ減った!」と碁会所から帰ってきそうな気がするし、私がヘマをした時に「バカだなあ!」と笑う声が聞こえてきそうなのだ。
もしかして、夫がこの世に存在していたのは錯覚だったのだろうか。私が彼と結婚していたことも、すべてが夢だったのだろうかと、一日の時間だけが過ぎて行く。
グズグズとして超事務的な仕事は捗らず、ブログだってかなりのご無沙汰だ。
こんな状態でいい訳ないといいながら、まだ当分私の気分はハイ&ロー状態なのかな?