内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
連れて帰った
2018.4.13 Fri
二週間ぶりの軽井沢。
先週はまだ枯山水の詫びしい町だった。芽吹きにはもう少し待って!状態だけれど、なんとまあ!コブシの花盛り。限りなく大勢の不届き者達が丸めて捨てたティッシュペーパーが、枝々に引っかかっているようだ。緑がない中で、ティッシュペーパーがとてもきれい。
木々は薄い薄い緑色のベールに覆われ始め、軽井沢の本当の春がやって来たらしい。
夫があんなに帰りたがっていた軽井沢。約束通りに、昨日夫をやっと連れ帰って来た。
今頃は『記念館』の自分のための花々に照れているかもしれない。自分のために泣いて下さった方々の心がうれしくて、他人事みたいにもらい泣きしているかもしれない。ティーサロン『軽井沢の芽衣』の庭で風と戯れているかもしれない。大好きだったドライカレーによだれを垂らしているかもしれない。
そう想像しただけで、私は泣いてしまう。そのくせ、夫がいないという現実を、私はまだ受け入れられないでいる。
私は現実を受け入れたり、受け入れられないでいたりしてまだヨロヨロしている。
しかし、お願いします。私は前世貴族の娘であることを誇りにしていますので、私を慰めないで下さい。
思い出話をしていて泣き笑いするのはいいのですけど、「頑張って!」と励まさないで下さい。「私はかわいそうな女」「わたしは寂しい女」になりたくないのです。虚勢でもいい、いつも胸を張っていたいのです……なんて、私はやっぱりまだヨロヨロかな?