内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
夢を見た
2018.6.14 Thu
先日、編集者と食事をしながら、やはり夫の思い出話になってしまった。
今ごろは花園でキャリーと遊んでいるだろうとか、やっと仕事から解放されて伸び伸びしているだろうとか……。
大いに笑わせてくれるような思い出話には大いに笑って、私は悪口も少し言った。きっとそのあたりで聞き耳をたてて、私たちの噂話を聞いているかもね……なんてことも言っていた。
そのせいかどうか、私は夫の夢をみた。夫が亡くなったときから3度目だ。
私が外出から帰ってくると、夫は凄く豪華なホテルから出てきた。……ということは、二人して凄く豪華なホテルに泊まっていたってこと? それにしては私は、夕飯用の食材の入ったレジ袋を持っていた。
夫はいつも持ち歩いている、ワープロの入った見慣れた黒いゴロゴロを転がしていた。
私が「どうしたの?」と聞くと「ワープロが写らなくなってしまったんだよ」と、ちょっと意味不明なことを言って、深刻な顔をしてもう姿を消していた。
夢でいいから出てきてよと、毎晩願ってはいたけれど、私の願いと噂話に応えてくれたのだろうか。
あれっ?と思ったら姿が消えているだなんて、生前のままではないか。生前は碁会所だったけれど、今回はどこに行ったのだろう。
花園にいると思っていたのにワープロだなんて。やはり『孤道』の完結が心残りだったのだろうか。
「やはり自分で完結させたかった」と涙したことがあったけれど、ほんとうにこころ残りだったのだなと、目覚めてから切なかった。
充分にいい仕事をしたのだから、もうのんびりしてればいいのに。