内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
敬意
2018.9.17 Mon
以前からの夫との約束は、私たちどちらかが先に逝っても葬儀や出版社主催のお別れ会はしないということだった。しかし夫は読者を大切にする人だったから、読者とはお別れをしたい。そのために『浅見光彦記念館』を一ヶ月ほどオープンにして、献花をしたい人が来られるときに来ていただこう……と。
3月13日に夫は亡くなった。生前の約束で葬儀は近親者のみで執り行い、その後のことは内田康夫財団の会報『木霊』でお分かりの通り夫との約束は果たした。
しかし、担当編集者たちから、出版社主催ではなく、自分たちのお別れがしたいと申し出がありそれならばと幹事を決めて、歴代の担当者たちによる『お別れ会』をすることになった。
だけどなァ、夫はそんなこと恥ずかしがるに決まっている。それで『お別れ会』ではなく『内田康夫担当者同窓会』ということにした。
当日、56人もの方々が集まって「あれェ! しばらく」、「やァ! やァ!」、「え? 生きてた?」なんて、『お別れ』ではなく、本当に同窓会そのものの楽しい会になった。
先輩諸氏の挨拶にヤジが飛んだりして、ほんとうに楽しい会だ。最後に『内田康夫』の代理で、私がご挨拶をした。
諸氏の優しい心がうれしく、また夫がもういないということに胸が熱くなって、ちょっと言葉がつまっていた。
先日その様子を映していたDVDが届けられた。
ほんとうに和やかで楽しげで、夫はほんとうにこの方たちに愛されていたのだなァと、涙ぐんでしまった。そしてびっくり。
その時は気づかなかったのだけど、席に座ってヤジを飛ばしたりチャチャを入れたりしていたのに、私のときは皆さんが席から立ち上がって敬意を表して下さっていたのだ。そしてザワザワがピタリと止んでいた。
DVDを見てそのマナーに驚き、だったらちゃんと落ち着いてご挨拶をすればよかったと、今さらながらの後悔。
やっぱり夫は尊敬されていたのだと、私も改めて夫に敬意を表した。
そのことを夫の遺影に報告したけれど、夫はただ微笑んでいるだけだ。