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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

やっぱり天才

2018.9.20 Thu

『明日香の皇子』以降、私はむさぼるように『内田作品』を読み漁っている。
『若狭殺人事件』を読んだとき、あれま! またおバカなセンセが登場していると笑いながら、やっぱりこの作家は天才だと思った。
文章に品がある、情景描写がいい、作品の奥行きが深いと感動の連続だ。重たいテーマでも、その重さを感じさせずにスルッと心に入り込ませてしまう。そして改めて『社会』というものを考えるきっかけにさせる。
これでは若い読者に、「祖母に、これ読んでごらんと内田作品を薦められて読んだら、完全にはまってました」と言わせ、世代を超えて読ませるはずだ。この読者のお宅は家族の会話があり、知的でいいご家庭なのだなと思う。
以前、夫が私のことを褒める文章を書いたら、「自分の妻を褒めるものではない」とお叱りの投書がきた。そのとき夫は「夫が褒めなくて、誰が褒めるのだ」と笑っていた。ドヒャー! これって私への愛の告白か? と私まで笑ってしまった……って、それはどうでもいいけど、私は『死者の木霊』から『孤道』まで、夫の執筆する姿をずっと見てきた。
初めのころはワープロの手が追いつかないほどストーリーが浮かび、ほんとうに楽しそうだった。よく内容がごっちゃにならなかったものだ。「登場人物が、早く書いてって急かすんだよ」って、これは紛れもない天才だ。
今は『箸墓幻想』を読んでいる。何と言う才能だ……って、妻が褒めなくて誰が褒める。
日本の古事記・日本書紀はもちろん、古代史から考古学などを教えてくれる。そして謂われのある市などの地名まで平仮名にしてしまう現代、『孜々』だの『謦咳』などの日本語に出会って、何度も目からポロポロとウロコが、それも1度に何枚も落ち、どれほど賢くなったことか(でも、すぐ忘れてしまう)。
内容とは関係ないけど、浅見光彦がソアラで奈良盆地に入ったのが3月13日とあって、そこのところで私は「うっ!」ときた。
内田作品群の、なんというテーマの幅の広さ、著者のなんという知識の豊富さ、なんという文章の品のよさ。夫に対して「惜しい人を亡くした」と、改めて尊敬と憧れのまなこだった(妻が褒めなくて誰が褒める)。
それにしても、出版されたときにちゃんと読んでいたはずなのに、初めて読むような感動。私はあのとき何を読んでいたのだろう……と、またいつか読んだとき、同じことを言うに違いない。

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2018.9.23 Sun つれづれに……

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2018.9.17 Mon 敬意