内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
恋しい
2018.10.7 Sun
久しぶりの青空だ。あまりの青さに庭に出た。
自然の力は凄いと、改めて思った。窓の下にあったので気がつかなかったのだが、ヤマブキ(山蕗)の葉っぱが、ボコボコと穴があきボロボロに破れているのもある。
雨のせいだった。茎は細いので雨のジャブを避けることだできたのだろうが、傘のように広がっている葉っぱは、ジャブを避けられなかったのだろう。
無残な葉っぱがおかしくて独り(一緒に笑う相手がいないから、この字になってしまう)笑ってしまった。
そういえば昔キャリーと散歩に出たとき、まだ別荘の建ってないお宅の庭のヤマブキをよく摘んできたものだ。藪に入る私を、キャリーがキュンキュン泣いて心配してくれたっけ。
春はフキノトウを摘んできて天ぷらや蕗味噌に、夏はキャラブキにして日々を楽しんでいたものだ。
蕗だけではない。ベリーを摘んでジャムに、山栗で栗ご飯、キノコは煮物にしてそれぞれの季節を楽しんでいた。
軽井沢の季節の中での、穏やかな暮らしに憧れて移住してきたはずなのに、いつから落ち着きのない日々になってしまったのだろう。
夫が逝く二ヶ月ほど前に、「あのころはキャリーと三人で、毎日が穏やかだったね」としみじみと言われた。私はハッとした。
私はよほど介護・介護と、心のゆとりを無くしていたのだろう。
「軽井沢に帰りたい、早く軽井沢に帰ろう」とあれほど恋しがっていた軽井沢は、すっかり様変わりしてしまった。
ボロボロのヤマブキの葉っぱに、穏やかだったあの頃の思い出に浸っていた。