内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
今回は……
2018.11.8 Thu
26年前に出された『透明な遺書』を再読した。
大体のストーリーは覚えていたけれど、やはり初めて読むような感動があった。
そして昔も今も、政治家や官僚をはじめ、企業も国民もその頃とちっとも変わってないし進歩もしてないなと思った。これが日本という国の、国民性なのだろうか。
『この国民にしてこの政治あり』と言われているけれど、それは本当だと、エピローグを読んでいてなお強く感じた。
作品の中だけでなく、浅見家の一家が現実にいればいいのにと思った。
そして……、『加部』だって。笑ってしまった。
字は違うけれど、ある二人の人物の名前を足して2で割っているのだもの。
この作家の作品は、作品のあとから現実の事件や出来事が追いかけてくることが多い。しかし偶然だけどそして考え過ぎだけど、この名前。ここまで先を読んで命名していたとはね。
望んではいないけれど、これでは未来永劫、栄誉賞はおろか一番下の勲章だって、とてもとても候補にもならない。体制側に嫌われるのがオチだ(でも読者がいる)。
『死』に臨んで心に書く『遺書』。
ふと、夫に『終わり』が近づきつつあるときに、私に遺した言葉の数々を思い出して胸キュンに目頭じんわり。
それは遺書や遺言ではないけれど、シャイで少々偏屈で素直ではなかった夫が、「今のうちに言っておくね」と、素直な気持ちをたくさん遺してくれた(ワーン! 泣いちゃう!)のだった。
そのうちの一つ。
「ぼくたちみたいに愛し合っている夫婦って、めったにいるもんじゃないよね」なんて、ニッポン男児たるもの、口が裂けても言わないようなこと……、素直になり過ぎ!
仲がいいって私たちだけじゃないと思うけど、「今回はそういうことにしておこう」って。
ン?
私の父が健在だったころ、夫と父が学術的なことで議論していた。そばで聞いていた私は、夫の言う事の方が正しいと思っていたけど、まァいいかと黙っていた。そのうち父は自分が間違っていることに気がついて「ハッ!」。そして悔しそうに「今回はそういうことにしておこう」って。後で父のいないところで大笑い、「素直じゃないね」って。「自分だって!」と、私は夫を笑ったけれど。
それ以来、『今回はそういうことにしておこう』という言葉が我が夫婦のマイブームになっていた……ということを思い出して、胸キュンに目頭じんわり。
夫だって自分の気持ちを素直に言っていたら、私、夫をもっと大切にしていたのにな。
素直が一番!