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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

晩秋

2018.11.15 Thu

テレビで深まり行く秋を映していた(またテレビネタだ)。
麦畑……。風に流れる黄金色の美しい麦穂に思い出したのは、埼玉県の村で過ごした小学生のころ。村だったから、もちろん村立の小学校だった。
戦後間もなくて東京には借りる家もなく、父は鴻巣駅から東京丸ビルのGHQまで通勤していた。
家族を養うために、通勤の往復だけでも大変だったようだけど、私たち兄妹はのびのびと子ども時代を過ごしていた。
その村は、現在では東京のベッドタウンとして大きな『市』になっているが、そのころは畑の広がる典型的な農村だった。学校から帰ると上の子は幼い妹や弟を背中にくくりつけて家の手伝いをし、農繁期には小学生にも何日かの農繁休暇があり、子どもたちも畑仕事を手伝っていた。
私たちは何もすることがなかったが、麦踏みを手伝ったことがあった。麦の伸びすぎを抑え根っこを強くするため……なんてことも知らずに、農家の方たちの真似をして後ろでに手を組み、横向きになってシコシコ踏んでいたっけ。
そして秋。麦は実る。そしてわざわざ麦畑の畦道を通っての子どもたちの登校下校。それには理由があった。通りすがりに麦の穂をしごいて口に入れてモグモグ。余計なものを吐き出しながらしばらく噛んでいると、口の中にガムのようなものが残る……と、ただそれだけのことを子どもたちは楽しんでいた。
父兄からのクレームがついて先生に叱られ、晩秋の子どもたちの行事は終わる。そして麦刈り。
これは手伝おうにも手伝えず、私は勉強は嫌いだったしで、ただボーッと過ごしていたに違いない。
深まりゆく秋に、ちょっと牧歌的な思い出に浸るひとときだった。

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