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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

横浜

2019.4.27 Sat

『横浜殺人事件』にも夫の命日の3月13日があった。そして私はあの時取材について行ってなかったと、あの日からたまらなく『人形の家』に行きたくなっていた。
当時の担当編集者はもうリタイヤしているので、現在の担当者、そしてあの時『横浜殺人事件』の次の作品を出す予定だった出版社の編集者と、当時とは全く関係のない他社の編集者の4人で、物見遊山みたいだけどとにかく東海道線で横浜に向かった。
横浜は懐かしかった。
クルーズの度に通って見慣れた街並み、倶楽部のイベントで行った山下公園、そこから見える氷川丸等々。
『横浜人形の家』は、私が思い描いていたものとは少し違っていた。私は西洋人形がずらり並んでいると思い込んでいたのだ。しかしそこには日本を始め、世界中の人形が集められていた。聞いたこともない小さな国の素朴なものから日本の古いものなど、よくもこんなに集めたものだ。もちろん作品に出てくる青い眼の人形のコーナーもある。
青い眼の人形のところで、ここに浅見が立っていて老婦人に話しかけられたんだとか、輪ゴムのお化けのことなど、たっぷりと楽しんだ。
外に出て、ふと葉の落ちた並木の木の種類が気になった。そして「これ、イチョウ並木ですよね」と編集者に聞いた。「イチョウでしょう」とのことだった。
イチョウでないと私は困るのだ。かって『横浜の恋人たち』という、今井久さんの作曲でレコードを出した。その中に ♪ 小雨の中をひとつのコート 子犬のようにじゃれあう二人 港横浜山下町の イチョウ並木 切ないたそがれ ♪ と書いた。
でもそのとき私は横浜には来てなかったのだ。想像で書いていた。だからこの木がイチョウでなかったら困るのだ。べつにヒットしてないからいいってもんじゃないと、ドキッっとしていた。
イチョウでよかった! 
安心して中華街に行き、たらふく食事を楽しんだ横浜小旅行だった。

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