内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
弥次喜多
2019.6.20 Thu
何年前だったかワールドクルーズのとき、プライベートで船を下りてオーストリア旅行をたのしんだ。
ルートヴィッヒ二世のノイシュバンシュタイン城に行ったり、ウイーンではモーツアルトの生家にも足を運んだ。クリムトの美術館にも行き、たっぷりとウイーンの世紀末的な官能の世界に浸ってきた。もっとも私と官能とはどう考えても接点はなかったけれど、不思議な世界に浸っていた。
そのクリムト展が4月23日から7月10日まで、東京都美術館で催されるという。行かなくては……。
でも最初と最後近くはすごい混雑することだろう。それで大阪に住む妹と待ち合わせをして、もう空いているだろう今日行って来た。
美術館に行くと、入館するのに40分待ちだそうだ。どうする?と妹を見て、同時に「やめる!」。何のために上野まで行ったの?状態だ。
悔し紛れに「クリムトはウイーンで見なくっちゃね」と私は言い、妹は「私は上野は初めてだけど、緑豊かで文化的で芸術的な風に包まれ、動物園の前を通ったからいい」と変な姉妹。
高島屋の割引券で昼食を摂ろうと意見が一致して、地下鉄で日本橋へ。
ホットサンドと私はブレンドコーヒー、妹はアメリカンコーヒー。ふと気が付くと、私には銀のスプーンと銀の縁取りのあるカップ。妹のは金のスプーンと金の縁取りのカップ。
「気がきいてるね」はよかったのだけど、私は二人の年齢から「キンさんギンさん!」と言うと、妹は「せっかく『月の沙漠』って言おうと思ったのに」と二人でクスクス。
この姉妹、これからも弥次喜多姉妹になるかも……。
しかし、本音を言うと、クリムトはもう一度見たかった。