内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
サラサラ髪
2019.12.18 Wed
シャンプーやコンディショナーのCMを見るたびに思うことだけど、この手のCMはいつもロングヘアのモデルだ。モデルの髪はサラサラと風に流れ、この商品を使う人はみんながサラサラになるのだろうなと思わせる。
でもなぜショートヘア、それもベリーショートのモデルを使わないのだろう。ショートヘアだと使用量が少なくて、商売にならないからかなァと勘ぐったりして……。
しかし昔に比べたら、髪の質が数段に良くなった。風にサラサラとなびく髪なんて、昔はそんなにいなかったと思う。それは薬品の進歩と、栄養のせいかもしれない。
昔、夏、女性は電車に乗って、扇風機の下には行かなかった。風に吹かれてボワッと浮き上がった髪はもとには戻らず、シルエットにしたら武士のかぶるかぶと状態だ。
それがいまではボワッ!ではなく、フワッと浮いてサラッと元に戻っている。羨ましい。ただ時には迷惑な時もある。風に流れるロングヘアが、そばにいる人の顔をくすぐることもあるから。
私は一時期を除いて、ずっとショートヘアだ。だから通勤電車に乗っても、扇風機はおろか、開けっぱなし(昔の電車は、窓の開け閉めは自由だった)の窓から入る風だって平気の平左だった。髪を押さえながら窓際の人をにらんでいる人をみて、内心ヘラヘラしていた。
そう! 列車で進行方向の窓際に座り頬杖を付いて、開けた窓から流れ込む風に目を細めて見る景色は抜群だ。そのもっと昔はボーッと汽笛が鳴ると、慌てて窓を閉めた。トンネルに入る合図だったのだ。
懐かしい思い出だけど、ただ……、以前からの私の夢は、左手で右側に垂れる髪を押さえながらラーメンを食べたい。