内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
医オケ
2020.2.5 Wed
そろそろ検診した方がいいかな?と、予約を入れてから歯医者さんに行った。
予約時間に行くと、私を待っていた先生が、それでもちょっと躊躇しながら、「あのー、治療の話ではないのですが……」と、話を切り出した。
「全国のお医者さんでつくるオーケストラのコンサートがあるので、行きませんか? ぼくはバイオリンでソロもあります」とのこと。会場はサントリーホールだそうで、もちろん「行く!行く!」。
このオーケストラは文字通り全国のお医者さんたちで結成されていて、日々医療の合間に真摯に音楽に向かい合っているのだそうだ。
音楽の楽しさを知ったお医者さんたちが、一流の音楽家の指導を得ながら一つの音楽を作る。合宿など、その一体感が忘れられなくて、2014年から2年に一度のペースで演奏会を開くことになったと言っていた。
医者のオーケストラを略して『医オケ』だと聞いて、私はそれなら官僚のオーケストラは『官オケ』?と……、これはすぐ漢字変換する私のいけないクセだけど、ちょっと笑える。
サントリーホールはほぼ満員だった。ステージには優に百人分の椅子が並べられている。向かって右にはコントラバスが7台(台と称ぶのか器と数えるのか?)ほど置いてあり、凄い迫力だなァと思った。
会場が暗くなると、楽器を持ったお医者さんたち(もちろんタキシード。女医さんは黒のロングドレス)が出てくる出てくる……。百人だもの、N響などのステー ジの倍近いのではないかと感じる。
演目はドボルザークの『チェロ・コンチェルト』ロ短調と、ショスタコーヴィチの『シンフォニー5番』ニ短調。
私、白状するけれど、ショスタコーヴィチの名前は知っているけど知識はない。なんだかややこしい音楽という程度だ。
優しいメロディーの部分もあったけれど、やっぱりややこしかった。
先生がおっしゃっていたソロもソロソロかな?……と、優しい音色だった。
それにしても皆さん凄いレベルだ。お医者さんのゴルフもいいけれど、休みの日に楽器をやって『医オケ』なんて、なんというカッコ良さ! なんというエレガントさ!
私、生まれ変わったらチェロにトライしよう。何だか改めてチェロに恋したサントリーホールだった。