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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

蕗みそ

2020.2.21 Fri

遊びに来た友人が、おみやげに『蕗みそ』の瓶詰めをくれた。温かなご飯や冷や奴に乗せて食べると、ほのかな苦みが懐かしい。
今はもう遙かかなたの、ほろ苦い思い出になってしまったけれど、軽井沢に移ったころの蕗みそ作りは、私の早春の行事だった。
100%ぼくが世話をするからと夫が連れてきたコリー犬のキャリー。その100%が5%がになり、毎日の散歩は私の日課になっていた。
夏は暑さを避けて朝夕に、秋はトンボの昼寝を邪魔したり、飛び立つバッタに驚いて逃げ帰ってくる小心者のキャリーだった。冬は雪まみれになり、早春の森の中の散歩では、緑の芽吹きを楽しんでいた。
ゴールデンウイークや夏休みなど以外、別荘に人の気配がない時のキャリーはリード無しだ。森を自由に走り回っていた。毛を風になびかせ、目を細めて走るキャリーの姿は、気高く美しかった。世界中で一番のカッコ良さだった。
早春、道ばたの草むらを気にしながら歩いていると、薄緑色した蕗のとうが頭を出している。つられて私が草むらに入ると、キャリーが「そっちに行っちゃだめ」と私を注意をする(たぶん!)が、私はその注意を無視して蕗のとうを摘んでくる。
草むらから出てくると「ダメって、言ったのに」と、私にまとわりついてくる。わ~ん!可愛い!
そして作る自己流の蕗みそと、もう少し春が進んでから作るキャラブキ。
久しぶりに食べた蕗みそが、私をあの頃に連れて行ってくれた。
ウルウルだった。
森の中の木イチゴなどで作るジャム。タラの芽の天ぷら……。
ウエーン! あの頃に帰りたいよ~!

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