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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

思い出……2

2020.8.22 Sat

朝、顔を洗おうと鏡をみると、ギョッ!と顔をそむけたくなるようなオババがいた。年齢を重ねる毎に寝起きの顔が酷くなって(寝起きでなくても酷い)、他人に見せられたものじゃない。ッタク!何てこった。
赤ちゃんのときはあんなに可愛かったのにって、自分の赤ちゃんのときの寝起きの顔を見たわけじゃないけど。
以前夫が、「あのさ!」と洗面所から出てきた。鏡の中に凄っげェ嫌な顔をしたジジイがいたと言うのだ。
私は「ホント? 見てくる」と、洗面所に行って大声をあげた。「いないじゃない! 可愛い女の子がいるだけよ」。「いや! 確かにいたんだよ」と夫は私の後ろから鏡をのぞいた。
「あれっ? 何だ! イケメンと凄っげェ嫌なババァに変わってる」と、あの朝のじゃれ合いを思い出してウルウル……。
溺愛犬のキャリーが亡くなったとき、私は立ち直るのに2年かかった。夢の中でも泣いていた。そんな私に夫は「ぼくが死んだ時も、カミさんは泣いてくれるのかなァ!」と、編集者にこぼしたそうだ。そのことを聞いて私は「もちろん泣きますともオ!」とふざけていた。
夫も私もその時は『死』というものを、現実のものとして考えてなかったのだろう。
そして夫が亡くなって……、私はキャリーの時ほど泣かなかった(多分!)。
それよりも泣いてくれる読者をハグしたり慰めたりして、少しハイになっていたような気がする。ハイになって、少しはしゃいでいたような気もする。もしかしたらあれは一種のヒステリーかも。
しかし一人でいる時……、そして2年半近くなった今もまだ夫を側に感じ、私を見る眼差しを感じ、夢に現れる夫に、楽しかったこと苛ついたことなどを思い出しては涙ぐんでしまう。
キャリーの『死』は現実の事と受け入れているのに、夫の『死』は、まだ完全には受け入れていない。
今朝も鏡に映る私に「ババァになったねェ!」と声が聞こえそうで、「お互いさまじゃん!」と思ってやった。思ったとたん目がちょっと汗をかいていた。
こんなこと、あと何年続くのだろう。

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