内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
あいつ今何してる?……3
2020.9.15 Tue
私はたぶん、元々の頭は悪くない(と母は言っていた)。ただ学校で教わる勉強に興味を持てなかっただけだ。だから授業中もボケーッと妄想に耽っていた。
ボケーッとしていても、小学校・中学校のころの成績はそこそこよかったけれど、高校になるとそうはいかない。
基本が頭に入ってないから、成績の順位は落ちるだけ落ちて、もう後がないくらいまで落ちた。それでも親から勉強しなさいだの、宿題はないの?と言われた記憶もない。ただ「落第だけはしないで」と言われただけで、相変わらずボケーッとしていた。
同級生たちは進学のための勉強に余念がないようで、だから……、多分……、そのせいで私はモテた記憶がない(言い訳!)。
でも『胸この』と、ちょっとときめいていた男子はいた(社会に出てから知ったのだけど『この胸のときめきを』というプレスリーも歌っていた歌を、業界では『胸この』と言っていた)。例によってその男子は背が高く運動神経があって、ハンサムだった。そして例によって女子の人気ナンバーワンだった。
しかしその男子は地元の国立大に、私は東京の短大へと、私の『胸この』は終了した。
しかし!しかし!
高校を卒業して最初の夏休みの同期会のとき、その男子が笑いながら近づいて来て「大学受験前でそんなゆとりはなかったけど……」と。私に『胸この』だったらしい。それで二人の『胸この』は終わり。清らかな青春だなァ!
彼はその後商社マンになって、その商社の美人と結婚したと風の便りに聞いた。
私だってその後作家になった『胸この』と結婚したけど……、あいつ今何してる?