内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
移ろい……2
2020.12.28 Mon
我が家の西側遠くに浅間山はある。ベランダから見る山の中腹から裾野にかけて広がる森は、春から夏のあいだは緑に覆われている。そして我が家のある小高い丘の森の木々が茂ると、オーバーに言うと、我が家からはまったく町が見えなくなってしまう。見下ろせば文字通り緑の海と化して、それで富士山麓に広がる森を樹海というのかな?。
夏の我が家から見える風景は、それこそ緑の海と青空(晴れていれば)と、そして遠く八ヶ岳連峰と浅間山の中腹から山頂だけになってしまう。その足下から広がる緑の海は、それは例えようもなく広く見事だ。しかし緑だった海は、夜になるとどこまでも真っ黒な海になって何も見えなくなってしまう。ワールドクルーズのときの、月も星もない夜の太平洋・大西洋まっただ中みたい……かな?
そして秋に向かうころから緑の海は少しづつ色を変え、紅葉黄葉になるとまもなく全ての葉が散ってしまう。そうするといつの間にか町が姿を現し、あんなところにも人は住んでいるんだァと、浅間山麓の枯れ木立の間から民家だかペンションが見え隠れし始める。それは北欧あたりの山荘のような、メルヘンチックな建物だ。
そして夜になると私はカーテンとガラス戸の間に入って瞬く星を見つめ、枯れ木立のすき間の、メルヘンチックな建物から揺れる火影に酔いしれる。北欧の何とかとい画家の絵のようで、もう!素敵なんだから!
緑の海と遠い枯れ木立に揺れる火影と、毎年がその感動の繰り返しで、いつの間にかこんな年齢になってしまった。
樹木の葉は散っても、また来年は芽吹いてくる。でも人間は逝ってしまうと、もう逢えないんだものなァ! 切ないなァ!