内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
東京の夜空
2021.1.25 Mon
38年前に軽井沢に居を移したとき、幡ヶ谷のマンションは処分した。
しかしその後、夫の仕事が忙しくなってカンヅメ生活をしたり、取材に出る時の足場にホテルを利用しなくてはならなくなった。
ホテル滞在に不便を感じ始めていたときにキャリーが亡くなって、私がかなり重症のペットロス症候群が原因の十二指腸潰瘍という、情けないことになった。
その治療のための通院が長引くであろうことと(私が立ち直るまでに2年かかった)仕事への不便さもあって、また東京に仕事用のマンションを買った。それ以来年末年始は東京で過ごし、夫の闘病生活が始まってから亡くなるまでのおおよそ4年、私は東京で過ごしていた。
この年末年始も私は東京にいた。コロナ感染が怖くて、ほとんどお籠もりだった。寂しくて毎晩夜空を見ては星を探していた。そして買ったばかりのマン ションに泊まった最初の夜の、夫の言葉をふと思い出した。
注文したカーテンが届くまで一週間かかった。カーテンなしの夜の部屋で、いつまでも明るい夜空に「東京の夜が暗くならないことを思い出したよ」。
そう! コロナ禍で20時以降のお店は閉まっているはずなのに、都会の夜は相変わらず明るい。そのせいで星は見えない。
それでもしつっこく目を凝らしていると、錯覚かな?と思うようにかすかに瞬いている星を見つけられるようになった。群青色なんて忘れてしまったような、ロイヤルブルーに薄いグレーを混ぜたような空に、遠慮がちに瞬く星。
時々「あれっ?」と思うとそれは夜間飛行だったりして……。そんなとき私は♪最後の最後まで 恋は私を苦しめた♪ と、胸キュン! 旅をしたいなァ!
飛行機の点滅する赤いライトに、ワールドクルーズの時に見た南十字星や蠍座の尾の赤い星を思い出して、胸キュン! ワールドクルーズなんて、もう二度とないだろうなァ!
もう少し暖かくなったら軽井沢に帰ろう。そしてカーテンとベランダのガラス戸の間に入って、いつかブログで『冬の星座』で書いたような、たくさんの星の瞬きを見ようと決めた。