内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
料理
2021.3.8 Mon
夫が亡くなってから、そろそろ3年。もうそんな!?
未だに玄関のドアにガチャガチャというキイを差し込む気配や、「ハラ減ったなァ!」という声を、心のどこかで待っている、だらしない私がいる。
夫は仕事がら、家が職場だった。だから取材などで留守のとき以外は、毎日、朝・昼・晩と三食必要だった。
囲碁以外は外出することは好きではない。食べることが大好きなくせに料理はしない。極々たまに気が向いて台所に立つことはあっても、その後片付けはまったくしないという、『男の台所』の典型だった。
朝の定番はパン食、昼は麺類(蕎麦各種・ラーメン・焼きそば・冷やし中華・パスタ各種)夕飯はいろいろだ。
私は朝食を片付けて事務局に行き、お昼に帰宅して昼食を摂ってまた事務局へ。そして帰宅して夕食の支度に取りかかる。振り返るとよくやったなァと自分で驚いてしまう。
夫亡きあと……、何もしない。特に今はお籠もりで野菜や惣菜など『お籠もり支援物資』に頼りっぱなしで、料理のメニューさえ忘れた。
この間テレビで、平目を炭火で焼いているシーンを見て、突然『舌平目のムニエル』が食べたくなった。あの頃、よく食べたなァ!
事務局の帰りにツルヤに寄って、舌平目があると必ず買ったものだ。
あのバターとレモンの香り、エンガワのパリパリとした食感。食べたいなァ!
でも一匹買ってきてジュウジュウ焼いて、あの頃を思い出しながらウジウジ食べて……、それよりも油の飛んだレンジの後始末がなァ!と、口の中に溜まった唾を飲み込むだけにした。
料理って、「美味しい!」と食べてくれる人がいないと作る気がしないものだ。
夫はおへそが横についていたから、決して褒めない。「うん! 犠牲者はボク一人にしておいたほがいい」とのこと。
コロナが収束したら誰を犠牲者にしようか。