内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
姪へのメール
2021.7.11 Sun
私は時々、姪とメールのやり取りをしている。
ロンドンのフォトナム&メイスンの紅茶を注文する時に便利で(我が家の紅茶はロンドン直輸入なのだ。前世イギリス貴族だったはずなのに、私は英語は一切できない)、英語が堪能な姪を利用している。勝手な時だけ利用するのは気が引けるので、つなぎに近況報告などメールのやり取りをしているのだが……。
今回のメールは上野動物園のパンダ『シンシン』に双子の赤ちゃんが生まれたけど、生まれたばかりのパンダの赤ちゃんは可愛いくないねェ。でも間もなく見ているだけでよだれが出そうなほど可愛くなるということから、私がお昼にボーッと(いつもボーッとしているけれど)庭を見ていたら、木のすき間でゴソゴソ動いているものがいたのよね。初めタヌキかと思っていたら、シカの子どもだったの。
餌を探しながら歩いていたらしい。ひょっとしたら、春に我が家の庭を横切って行ったシカの子どもかもね。時間的には親離れをして、自分で食べ物を探す時期だったのかもしれない。あの時のシカはお母さんだったのかお父さんだったのかと想像したら、ふんわりとした気持ちになったの。
雨が上がった途端、エゴの花にミツバチが集まってきて忙しく働き始めたのよ。あんなに忙しく働いて、蜜をどうするのかしら。エゴの花の蜜は高級品と聞くから、人間が横取りしているのかもね。
そして春にね、某氏に「私は毎日毎日庭のコブシのつぼみを数えているのですけど、数える度に数が合わないのです」とメールを送ったら『盗ったのは私です』 とメールが返ってきたの。こんな返事を返してくるなんて、私はつぼみでなく心を盗られそう……と、そんなことまで姪にメールしたら「伯母さまはクララではなく、ハイジ的貴族なのですね」と返事が返ってきた。
私はアン・シャーリーのつもりでいたけど、ハイジ的貴族か……と、それもアリか?と、ちょっとうれしい。
イギリスの貴族は田舎にマナーハウスを持っているし、私は軽井沢の森の中の暮らしを楽しんでいるし……って、やはり私の前世はイギリスの貴族だったことにしよう。
そう言えば、夫が亡くなる少し前に「来世はぼくもイギリスに行くから。イギリスで待ってるからね」と言われたのだった。
そのとき「江戸町民とイギリス貴族とでは、身分が違いすぎるのになァ」と思ったけれど、まァいいか。