内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
思い出ぼろぼろ
2021.8.1 Sun
籠の鳥生活でコロナ禍の中、テレビを見る時間が増えた。特にNHKBSプレミアムが多く、日によっては5時間ほど見ている。何を見ているかというと、海外のニュースと昔の映画。
映画は、まァ懐かしい。西部劇、ミュージカル、恋愛もの。この間は『カサブランカ』だった。「君の瞳に乾杯」だなんて、そんなことを言われたら、私……、どうしよう(別にどうもしないけど)。
私が短大時代は吉祥寺に住んでいて、ドがつくほどビンボーだった。お金がないから、休みの日にはその頃吉祥寺にあった名画座に通っていた。古い映画3本立てで、入館料が多分50円だったかな?(違うかもしれない)。50円で1日過ごせるので、2年間でトータル何本の名画を見ただろう。いい映画がたくさんあった。
その頃に見た映画を、NHKBSプレミアムでしょっちゅう見られるのだ。その度に経済的にひもじかった青春時代を思い出していた。
経済的にはひもじかったけど、今はたくさんの思い出が残っていて、若いときのビンボーも悪いものじゃないなと懐かしがっている。
そして友だちもいないお金もない私は、井の頭公園を一人でよく散策した。そんなとき、着流しの着物姿の亀井勝一郎を見かけて感激したりしていた。
この感激って、初めて訪れた浅見光彦倶楽部クラブハウス(現在の記念館)で『内田康夫』を見かけて「あっ! 動いてる」と固まった人と同じかな? と、そんなことを思い出して、やっぱり若いっていいな……なんて、ああ!イヤだイヤだ。ヨダレを垂らしそうにして思い出に浸っているなんて、トシはとりたくないものだ。
♪ 思い出ぼろぼろ 夢ん中……♪で、思えばもう私には過去しかないのだった。