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内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。

グリーンフラッシュ

2021.8.8 Sun

友人からメールが届いた。
新聞を読んでいたら『緑閃光』という記事に目がとまったのだそうだ。
これはグリーンフラッシュのことですよね……と。その友人は、私の『夜想曲……別れ』を読んでなかったら、たぶん緑閃光という言葉を見逃していたに違いないと言っていた。
緑閃光がグリーンフラッシュのことかどうかは知らないが、この幻想的な光りは、幸福の予兆だと記事にあったそうだ。
私たち夫婦は、ワールドクルーズを何度か経験した。
海外旅行をしたいけど英語がしゃべれない、飛行機が怖いということで船を選んでいただけなのだが、私たちにとってそれは正解だった。
海の上を滑るようにゆったりと流れる時間。ショーを見たりご飯やおやつを食べたり、海の色を見たり空の色を見たり、眠ったりしている間に次の国に着く。次の国に行くための荷造りがいらない……と、ずぼらな私たちにぴったりだった。
そしてグリーンフラッシュ。
これは諸々の気象条件が揃わないと見られず、発生確率は非常に少ないらしい。
その低い確率でしか見られないグリーンフラッシュを、私たちは2度見た。
夕日が波を赤く染めながら水平線に近づいて行く。そして海に着水する瞬間、緑色の閃光になって水平線を走る。
その時の言葉は「アッ!」「おお!」または無言。
『夜想曲……別れ』の「波の戯れ」のように(作品はフィクションです)、夫と二人肩を並べて見た。
幸福の予兆! でも私たちの場合は予兆でなく幸福そのものだったから……だなんて、ちょっと言い過ぎかな?
ともあれ、グリーンフラッシュ……。感動的だったけれど、もう見るチャンスは私にはないのだ。

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