内田康夫夫人であり、作家・エッセイストでもある早坂真紀の随想を不定期でお届け致します。
冬支度
2021.11.21 Sun
森だから当然のことながら、木がたくさん生えている。たくさん生えているから森というのだけれど。
ほとんどが落葉樹だから、春は緑の芽吹きに生命の息吹というものに感動し、秋には燃えるだけ燃えて終わっていく生命が、私を切なくさせる。
切ないと言いながら、終わった生命の後片付けに「チェッ!」
森だから落ち葉の量は半端ってものじゃない。掃いても掃いても次から次に散ってきて、「まったく、もうッ!」
散るだけ散って空が広々とし道路に厚い絨毯ができ、雪が降る前に管理事務所のバキュームカーがやってきて、落ち葉の全てを吸い取っていく。だからと言って、我が家の落ち葉を道路に掃き出しておけばいいというわけにもいかず(少しは……、いや!半分は出している)、隣りとの境界線近くに掃き寄せることにしている。いずれは腐葉土になることだし、カブトムシの幼虫の寝床になるからだ。それにお隣りは夏の何日かしか来ないから、たぶんバレてない。
そして冬。
別荘が冬の眠りにつく前に、水道管の水をすべて抜き取らなくてはならない。使用しない水道は、寒さで水が管の中で凍ってしまう。凍ると体積が増えるので水道管は膨張してヒビが入り、春になって氷が溶けると、そのヒビから水が吹き出して家中が水浸しになるからだ。もっとも我が家は冬も軽井沢暮らしだったから、以前は水抜きはなかったけれど。
その冬支度の繰り返しで、振り返れば軽井沢に移住して38年が過ぎていた。
木々の葉がすっかり散ってしまった森。しかしモミの木だけは緑のまま聳えている。
毎年そんなモミの木を見ると、私はアルプスの少女ハイジが住むアルムのモミの木を想像してしまう。
そしてなぜモミの木は葉が散らないのか。それは森のすべての木の葉を散らしてしまうと、小鳥がかくれんぼができなくなるから……と、いいトシをして幼稚なことを想像している私を笑って下さって結構です。